『ゴシップガール』を観終えて

3年前から細々と観てきたGossip Girl(『ゴシップガール』)をようやく観終えました.

アッパーイーストサイドのセレブな若者が繰り広げる波瀾万丈すぎる物語がとても好きでした.

一言で言えばとにかくハチャメチャに尽きるんですが,ハチャメチャだからこそたまに光る良心が真実味をもっていたと思います.この点は『カラマーゾフの兄弟』に通ずるところでした.人間の醜い欲求の部分まで正直に描かれていた(むしろ過剰なくらいに),というのがポイントだと思っていて,やはりフィクションではそこをオープンにしていかなければいくら善意が描かれてもどこか綺麗事めいてしまうだろうなと.

全6シーズンあってなかなかの長旅でしたが,3年間も観ていたので,登場人物たちが心の中で仲間のような存在となっていた気がします.

以下では簡単にゴシップガールの概要を紹介し,お気に入りの登場人物について簡単に感想を綴りたいと思います.

概要

冒頭で述べた通り,ニューヨークのアッパーイーストサイドを舞台にしたセレブな若者たちの豪華絢爛でハチャメチャな話です.主要人物は同じ高校に通う5,6人のメンバーとその周りの人々(家族,友人,知人,etc.)です.彼らが身内で付き合って,浮気して,別れてを複雑かつ高速でまわしつつ,常に誰かが誰かをターゲットに悪巧みをするという日常が展開されます.その波瀾万丈の中で時々家族,恋人,友人の愛情がきらりと光ります.

設定としては,「ゴシップガール」という運営者不明のゴシップサイトに日々ゴシップネタが投稿され,そのネタが様々なタイミングで投下され人間関係をかき混ぜていく形になっています(ゴシップガールが誰かの浮気を暴いて関係性を崩壊させる,というように).ラストではゴシップガールが誰だったのかも明かされます.

話の基本フォーマットは,各話の前半に複数の関係性においてパラレルに同タイプの問題が進行し(例えば,家族A/Bで同時的に親子喧嘩が勃発する.カップルA/Bで同時的に他方が浮気をする,etc.),後半でパーティーに全員が集結し,大爆発するか問題解決するか,というものです.

ブレアとチャック

1番好きだったのはブレアとチャックの関係性です.ブレアとチャックはゴシップガールの中でも根強い人気を誇るカップルです.

初期の彼らはまさに悪のキングと悪のクイーンでした.日々,自身の欲求を満たすため,他人を傷つけることを辞さない素行で,絶対まわりにいたら嫌だなと思ってみてました笑

ところが不思議なことに,話が進んでいくにつれ,彼らに対する気持ちはもっぱら好意的なものへと変わっていきます.高校を卒業した後も悪事の内容や程度としてはさほど高校生の頃と変わっていないのですが,そうした彼らの悪事がなぜか許せるようになります.これはおそらく自分だけではなく,ググってみると多くの人が経験している気持ちの変化っぽいです.

なぜこうした印象の変化が起きたのかを考えると,おそらくそれは,彼らが常に正直であり,彼らの心のうちに確かな良心が存在していたからだと思います.

実は,初期の段階ではブレアやチャックの悪さが目立っていたのですが,後半ではほとんど全ての登場人物が悪巧みを企てるようになります.実際にそのような世界が存在していたら間違いなく人間不信になるだろうというくらいに(ダークなところがなかった登場人物は,ドロータ,エレノア,サイラス,エヴァくらいでしょうか.あとはある意味ネイト?).ただ,ブレアとチャック(あとネイト)以外の悪巧みはかなり悪質なものが多かったです.悪質なものというのは,自分が何かを得るためというよりも誰かを貶めるために為される悪事のことです.さらにそこに巧妙に自己正当化を重ねていくというのが,ブレア,チャック以外にみられた特徴でした.

ブレア,チャックはどうかというと,悪事は基本自分が欲しいものを手に入れる類のものでしたし,悪事をなしている自分たちのことをそのような種の人間であると正直に認めていました.さらに,時にはそのような自身のあり様を反省することさえありました.また彼らは,家族,友人,恋人のためなら全力でサポートをするという一面ももっていました.

ストーリーを通じて彼らをみていく中で,次第に彼らの中に確固たる良心が存在しているのだなと思うようになりました.まさに『カラマーゾフの兄弟』でドミートリイのうちに良心を見出したときの感覚と酷似しています.

ラストでFBIに追われながら大急ぎで結婚式を行ったのも非常に彼ららしかったです.一見悪く見える人が,実はちゃんとした良心をもっていて,きれいな結婚式ではなく,ぶっとんでる結婚式を行う.ブレア/チャックとセリーナ/ダンとの対照的な関係がきれいに描かれたラストでした*1

ネイト

上では例外としたネイトです.ネイトは個人的に"おもしろかった"という印象です.

第1話では,ブレアとセリーナがネイトをめぐって喧嘩してたので,ネイトが正統派モテキャラなのかなと思っていました.ところが回を重ねるにつれネイトの良い意味でも悪い意味でもおバカな一面が明らかになっていきます.狡猾に悪事を進めていく周りの登場人物に比して,悪事を行うネイトはどこかマヌケなのです.わりと明らかな落ち度があって簡単に見破られたり,悪事をやってのけたつもりが実は誰かの手のひらの上で転がされているだけだったり.ネイトは終盤で「スペクテイター」という出版社を経営するようになるのですが,中盤からそこに至るまでは何をやっても基本ズッコケてばかりでいつもどこか悲壮感を漂わせていたように思えます.

そんなネイトですが,非常に情熱的で正直でまっすぐな人間でとても好感が持てました.ゴシップガールにネタ提供してなかったのもネイトだけでした.

ドロータ,エレノア,サイラス

ドロータはブレアの家のお手伝いさんです.いつもブレアのわがままに振り回されています.ドロータは幼い頃からブレアの面倒をみており,ブレアのことなら何でもお見通しです.時には厳しい注意を与えることもあります.自分はこのドロータがとても貴重な存在だと思っています.ブレアはその性格から他人といざこざを起こしやすく,また気持ちの浮き沈みもとても激しいです.そんなブレアをドロータはいつも抜群の包容力で受け止めてくれます.ドロータがいなかったらブレアはどこかのタイミングで精神が崩壊していただろうなと思います.

エレノアはブレアのお母さんです.有名なファッションデザイナーでいつも忙しそうにしていて,ブレアに会う時間もそこまで多くはありません.そんなエレノアをブレアはとても尊敬していて,エレノアもブレアの幸せを一番に考えています.リリー(セリーナの母)とセリーナ,バート(チャックの父)とチャック,ルーファス(ダンとジェニーの父)とダン/ジェニーの関係性が非常に不安定だったので余計にエレノアとブレアの関係性は優しさに満ち溢れていたなと感じました.

サイラスはエレノアの再婚相手です.見た目はいかにもエレノアと不釣り合いという感じですが*2,機知に富み,家族への確かな愛をもった人物です.再婚時ブレアはサイラスに大いに反発していましたが,どんなに反発されても嫌な顔一つせず,ブレアが受け入れてくれるのを待ち続ける姿には涙しました.その後のストーリーで何度もブレアの危機を救っています.

こうしてみるとブレアは本当に優しい人たちに囲まれていたのだなと思いました.

おわりに

自分の中で好きな作品の特徴の一つとして,登場人物が心の中で仲間になるというのがあります.ここ最近で言えば,記事にもした『ソクラテスの弁明』,『カラマーゾフの兄弟』がそうした作品です.登場人物に共通するのは,常識や他人からの思われにもとづくのではなく,内なる良心にもとづいて行動し,自分自身を反省することができるということです.登場人物はフィクションの世界の住人ですが,彼らが体現する精神は現実世界でも妥当性をもつものだと考えます.

これからもこうした作品とたくさん出会えたらなと思います.

ゴシップガールの舞台アッパーイーストサイド

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Upper_East_Side_NYC.jpg

ソクラテスの弁明』についての記事

nakant.hatenablog.com

カラマーゾフの兄弟』についての記事

nakant.hatenablog.com

*1:ただ一つ付け加えておきたいのは,善は善それ自体で評価されるべきだろうなということです.確か,「欲に基づくインセンティブが存在しない状況でしか明確に善であると言えない(根っからの善人だったらむしろ善いことを"したい"ということになるので)」みたいなことを言ったカントに対してシラーが「悪人(善いことを"したくない")しか善をなせないじゃん」と皮肉っていた気がするんですが,それと似てるなと思います.悪の中に光る善は目立ちやすいんですよね.

*2:ここでも付け加えると,自分は容姿を人間の価値には加味したくないなと思っています.大部分が生まれもって決定するなかで,その要素で判断がなされるのはなかなかに残酷ですからね.